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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)100号 判決

事実及び理由

一  請求の原因(一)ないし(三)の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決理由の要旨)については、当事者間に争いがない。

二  右争いのない本願考案の要旨に、いずれもその成立に争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案公報)とくにその考案の詳細な説明中の「苗保持枠35の苗取出口を駆動車輪1、1′の後端近くに臨ませてこの苗取出口に回転腕41の運動により上下動する植付爪を作用させてあるから、駆動車輪と苗植付位置が前後方向に近づき車輪の蛇行による植付列の蛇行を極小とすることが出来、しかも回向の為植付の停止を行う場合も植付列の終端が前方に位置し手植を要求される枕地が少なくてすむ。」との記載(6欄第二〇ないし第二七行。後記甲第三号証により誤記の訂正をしたもの)、甲第三号証(明細書の誤記の訂正を内容とする昭和五三年二月一日付手続補正書)、甲第四号証(第一引用例)及び甲第七ないし第一〇号証(いずれも特許ないし実用新案公報)並びに本件口頭弁論の全趣旨をあわせ考えると、次の事実が認められる。すなわち、本願考案の出願に至るまで、原動機によつて回転させられる一対の駆動車輪を有し、駆動車輪の後方に苗植付機構を設けた歩行型動力田植機においては、駆動車輪が耕盤(水田の泥の下の固い土)に接触して前方に回転する反動で機体が逆方向に回転する力を受けることと、後部に積載した苗の重さとにより、機体後部を下方に動かす力が働くので、その力を減少させるため、駆動車輪の後方に整地板を設け、その反力を利用する構成をとるのが通常であつたが、右構成のため、苗の植付機構は、整地板のさらに後方に位置されるようになつていたこと、ところで、右歩行型動力田植機においては、耕盤に凹凸があつた場合その凹凸にあたつた一方の駆動車輪は他の駆動車輪より前進が遅れ、そのため、機体後部が左右に振られるということが避けられなかつたが、前記のように駆動車輪から整地板をへだててさらに後方に苗の植付機構を設けた田植機では、駆動車輪と苗植付位置との間隔が大きいため、機体後部が振られることの影響が大きく、植付苗列の蛇行が大きくなるという欠点があつたこと、ところが、本願考案においては、苗付爪を駆動車輪後端近傍に配設し、かつ、苗植出口も駆動車輪後端近くに設けるという構成をとつたので、歩行型動力田植機であるにもかかわらず、駆動車輪と苗植付位置との間隔が小さいため、機体後部の振れの影響が少なく、植付苗列の蛇行を極小とすることができ、また、水田の端近くまで植付できるので枕地を少なくできる等の作用効果をあげることができたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

三  次に、成立に争いのない甲第六号証(第三引用例)とくにその発明の詳細な説明中の「ハンドル16をもつて田植機を押せば、そり17が田圃の土の上を滑りながら前進し、その際爪車19の周囲部は土中に没入しているため、爪車19は回転し、その軸3の回転はチエン4によつて捲取ローラー2に伝わり、ローラー2は回転して薄膜15を捲取る」との記載(第一頁右欄第五ないし第一〇行)等によれば、第三引用例に記載されたものは、機体が人に押されることによりそり(整地盤の作用をも兼ねるものと解される。)によつて田の泥の上を滑つて前進する手押式田植機であり、その「爪車19」は、機体の前進に伴い相対的に後方に移動する泥によつて回転させられ、その回転力をチエーンにより回転植付爪である「平杆21」に伝える機能を有するものであるが、機体を前進させる作用には何ら関与するものではないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四  そして、前記争いのない審決の要旨によれば、審決においては、第三引用例の田植機における「爪車19」を「駆動車輪」であると認定し、右認定に基いて、本願考案の田植機が第一引用例のものと異る構成として有している(1)植付爪を駆動車輪後端近傍に配設すること及び(2)苗取出口を駆動車輪後端近くに設けた点について、これが第三引用例から容易に考案できる程度のことであると判断したことは明らかである。

五  しかしながら、前記二及び三に認定した各事実を対比すると、第三引用例の田植機は、人力によつて前進するもので、車輪の回転力によつて前進するものではないから、本願考案にかかる田植機のような歩行型動力田植機のように駆動車輪の回転反力によつて機体後部を下降させる力が働くこともないので、その力との対抗上整地板を爪車の後部に設ける必要もなく、この関係では爪車を苗植付機構と近接させることには何らの支障もないばかりでなく、さらに、もともと第三引用例におけるような手押式田植機では、耕盤の凹凸に駆動車輪があたることに起因する機体の振れが起ることはないのであるから、その点では爪車と苗植付機構とを近接して設けても何らの利点もないということができる。そうすると、第三引用例の手押式田植機において、苗植付機構である「平杆21」が、たまたま形状こそ車輪状をなしているとはいえ、前認定のとおり歩行型動力田植機の駆動車輪と全くその機能を異にする「爪車19」に近接して設けられていたとしても、このことから、本願考案の田植機が第一引用例のものと異つている前記四の(1)及び(2)の構成が容易に考案できたものとすることは、到底できず、これを容易に考案できる程度のものとみた審決は、誤つて前記四記載の事実の認定及び判断をしたものといわなければならない。

六  以上によれば、その他の点について検討するまでもなく、審決における右認定・判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決を取り消すこととする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

前部に原動機、下部に整地板を設け、更に一対の駆動車輪を軸架させた機体に回転腕により先端が駆動車輪後端近傍で上下動する軌跡を描く植付爪を配設し、前記駆動車輪の車輪軸よりも後方で機体に取り付けてある操縦ハンドルを後方上方に向つて延設するとともに、駆動車輪後端近くに苗取出口を臨ませ、苗取出口側を受枠で又上下長さの中間部を案内部材で支持させて左右往復移動すべく構成した苗保持枠を操縦ハンドルの握り部近くにまで、該操縦ハンドルを含む扁平面に沿つて延設してあることを特徴とする田植機。

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